第2回ヨーロッパ女子情報オリンピック (EGOI 2022) トルコ大会
参加報告

日本選手団 団長 戸髙空

  1. 概要
  2.  第2回ヨーロッパ女子情報オリンピックトルコ大会 (EGOI 2022) は2022年10月16日から10月23日まで、トルコのアンタルヤで開催された。
     開会式はAlva Donna World Palace Hotel で行われた。選手、随行員の宿舎もともに Alva Donna World Palace Hotel であった。閉会式は Mimar Sinan Kongre Merkezi で行われた。
     EGOI 2022 には 43 ヶ国・地域から 164 名の選手が参加した(公式参加者数)。競技は 10月18日と10月20日の 2 日間にかけて行われた。各競技日の競技時間は 5 時間であり、出題された課題数はそれぞれ 4 題(2 日間で合計 8 題)であった。競技結果に基づき上位者には金・銀・銅のメダルが授与された。ヨーロッパ参加者の約半数にメダルが授与され、金・銀・銅の割合はおよそ 1:2:3 と定められている。ヨーロッパ以外の参加者については、ヨーロッパ参加者に適用された点数の基準に基づいて、メダルが授与される。今年は金メダルが14名(全参加者の約 9 %)に、銀メダルが36名(全参加者の約 22 %)に、銅メダルが 34名(全参加者の約 21 %)に与えられた。
     EGOI 2022 における日本代表選手の成績は、銀メダル 1 個、銅メダル 1 個であった。

       
    EGOI 2022 日本選手団
     日本代表選手
      飯島亜海  桜蔭高等学校2年
      銀メダル  大野栞 筑波大学附属高等学校3年
    藤居星 北海道札幌南高等学校1年
      銅メダル 山下結菜 東京都立小石川中等教育学校2年
     日本選手団役員
      団長 戸髙空 京都大学3年 (IOI 2019選手)
      副団長 米田優峻 東京大学2年 (IOI 2018 特別参加選手、IOI 2019・2020 選手)
      随行員 廣江彩乃 お茶の水女子大学大学院修士2年

     EGOIは個人戦であり公式データとしての国別順位は存在しない。公表された成績に基づいて算出したところ、メダル獲得数による日本の国別順位は 19 位であり、総得点による日本の国別順位は 15 位であった。

  3. 競技について
  4.  EGOI は数あるプログラミングコンテストのうちの1つであるが、同時に数ある科学オリンピックの1つでもあり、女子中高生を対象としていること、必要な知識を最小限にとどめ柔軟な思考力を問うこと、代表選手が世界各国から参加するという特徴がある。競技では、与えられた開発環境を用いてプログラム (C++、Python のいずれか) を作成してソースファイルを競技サーバへ提出する。提出したプログラムは競技サーバ上でコンパイル・実行され、その実行結果に基づき得点が与えられる。実行時の時間・メモリに制限があるため、効率の良いアルゴリズムを設計することが重要となる。早く提出することによるメリットや、誤った解答を提出した場合のペナルティは無い。選手には、高度な課題に対して、5 時間の競技中にじっくりと取り組むことが要求される。
     競技時間内であれば解答の再提出も可能である (提出回数の制限は課題ごとに 50 回であるが、通常この制限を超えて解答を提出することはあり得ず、実質的に提出回数は無制限と言える)。
     EGOI 2022 で出題された課題は以下の 8 題である。
                   
    EGOI 2022 競技課題
     競技 1 日目    部分集合Mex (SubsetMex)
      レゴ壁 (Lego Wall)
      ソーシャルネットワーク (Social Engineering)
      観光客 (Tourists)
     競技 2 日目 データセンター (Data Centers)
      スーパー駒 (Superpiece)
      おもちゃの設計 (Toy Design)
      千花はズルをしたい (Chika Wants to Cheat)

     いずれも数理的思考力が問われる良問である。各課題はいくつかの小課題に分割されている。小課題の中には、単純な実装で得点が得られるものから、高度なアルゴリズムを実装しないと得点が得られないものまで含まれている。従って 1 つの課題を丸ごと落として 0 点になってしまう可能性は少ないが、満点を取るのは難しい。
     また、すべての問題の満点の配点は同じため、比較的簡単な問題では満点を取りたいところであるが、他のプログラミングコンテストと違い、選手はコンテスト中に順位表を見ることはできない。このため、選手は問題の出題順 (運営の考える難易度順) も参考にしながら難易度を一人で判断し、コンテスト中の時間配分を考えなくてはいけない。
     EGOI はプログラムの作成技術を競う大会ではない。技術力があるに越したことはないが、それよりも EGOI で重視されるのは数理的な思考力・洞察力である。競技では課題の本質を見抜く力が問われ、(気づけばそこまで難しくはないものの) 一見して何をしたらいいか分かりづらいような問題も出題された。

     (1) 競技規則 : IOI とほぼ同一の競技規則が適用された。
     (2) 競技実施方式 : 今年はハイブリッド形式での開催であった。スコアボードは不正行為防止を主目的として、各日競技終了まで役員にのみ公開された。EGOI 2022 で出題された課題は、標準入出力を用いてデータの読み書きを行い、与えられたデータを処理するプログラムを実装した完全なソースファイルを提出する形式と、指定された方法でやりとりを行う関数を実装する形式 (Interactive task) であった。出力ファイルのみを提出する形式の課題は出題されなかった。提出されたソースファイルは競技システム上ですぐにコンパイル・実行・評価される。競技参加者にフィードバックが返され、自分の得点を知ることができる (現在の競技規則では、すべての提出に対して完全なフィードバックがあることが明記されている)。満点でなかった場合は、どの小課題で失点したかを知ることができる。
     (3) 競技システム : 競技時間中、選手にはノート PC が 1 人 1 台与えられた。選手の PC には開発環境と、競技システムにアクセスするためのウェブブラウザがインストールされている。
    競技システムは、 IOI と同様、CMS が用いられた。インターフェースは簡潔で、また JOIG 春合宿でも使用していることもあり、その使い方については選手が自ずと理解できたようである。
     (4) 翻訳 : 競技日の前日の夜には副団長・随行員により問題文の翻訳が行われた。
     今年の翻訳システムは近年の IOI と同じもので Markdown 形式で、すべての編集がサーバー上に保存され、システム上から印刷を要求できるなど、使いやすいものであった。日本語フォントに問題があったが、こちらが用意したフォントファイルをアップロードすることにより解決した。

  5. その他・感想など
  6.  今年の EGOI は初の現地開催であったが素晴らしい運営がなされていたと思う。特に競技に関しては様々な問題や要望があったが、それぞれに誠実に対応してできる限りの改善がなされていたように思う。またホテルや食事などの選手が過ごす環境や、エクスカーション、開閉会式などのイベントに関してもとても充実していた。ホスト国のスタッフやガイドの皆さんにも本当に親切に対応していただいた。あらためて大会の運営に関わった方々に深く感謝したい。


  7. おわりに
  8.  今年は初の現地開催で銀メダル1個、銅メダル1個というすばらしい成績をおさめることができました。今回、EGOI 2022 への選手団派遣を無事に終えることができましたのは、日頃より情報オリンピックの活動にご支援をいただいている皆様のお陰です。この場を借りてお礼を申し上げます。どうもありがとうございました。今後ともよろしくお願いします。