第3回ヨーロッパ女子情報オリンピック (EGOI 2023)
スウェーデン大会 参加報告

日本選手団 団長 渡邉雄斗

  1. 概要
  2.  第3回ヨーロッパ女子情報オリンピックスウェーデン大会 (EGOI 2023) は 2023 年 7 月 15 日から 7 月 21 日まで、スウェーデンのルンドで開催された。
     開会式はルンド大学で行われた。選手の宿舎は Elite Hotel Ideon、役員の宿舎は Motel L Lund であった。閉会式は Stadshallen で行われた。
     EGOI 2023 には 52 ヶ国・地域から 189 名の選手が参加した(公式参加者数)。競技は 7 月 17 日と 7 月 19 日の 2 日間にかけて行われた。各競技日の競技時間は 5 時間であり、出題された課題数はそれぞれ 4 題(2 日間で合計 8 題)であった。競技結果に基づき上位者には金・銀・銅のメダルが授与された。ヨーロッパ参加者の約半数にメダルが授与され、金・銀・銅の割合はおよそ 1:2:3 と定められている。ヨーロッパ以外の参加者については、ヨーロッパ参加者に適用された点数の基準に基づいて、メダルが授与される。今年は金メダルが 17 名(全参加者の約 9 %)に、銀メダルが 27 名(全参加者の約 14 %)に、銅メダルが 48 名(全参加者の約 25 %)に与えられた。
     EGOI 2023 における日本代表選手の成績は、金メダル 1 個、銀メダル 3 個であった。

       
    EGOI 2023 日本選手団
     日本代表選手
      銀メダル  小田華子 桜蔭高等学校3年
      銀メダル  沈展帆 大阪府立佐野高等学校2年
    金メダル  藤居星 北海道札幌南高等学校2年
      銀メダル へファナン色葉  兵庫県立宝塚北高等学校3年
    日本選手団役員
      団長 渡邉雄斗 東京大学1年 (IOI 2021・2022選手)
      副団長 米山瑛士 東京大学2年
      随行員 大野栞 東京大学1年 (EGOI 2022選手)

     EGOI は個人戦であり公式データとしての国別順位は存在しない。公表された成績に基づいて算出したところ、メダル獲得数による日本の国別順位は 5 位であり、総得点による日本の国別順位は同率 2 位であった。

  3. 競技について
  4.  EGOI は数あるプログラミングコンテストのうちの一つであるが、同時に数ある科学オリンピックの一つでもあり、女子中高生を対象としていること、必要な知識を最小限にとどめ柔軟な思考力を問うこと、代表選手が世界各国から参加することなどの特徴がある。競技では、与えられた開発環境を用いてプログラム (C++、Python のいずれか)を作成してソースファイルを競技サーバへ提出する。提出したプログラムは競技サーバ上でコンパイル・実行され、その実行結果に基づき得点が与えられる。実行時の時間・メモリに制限があるため、効率の良いアルゴリズムを設計することが重要となる。早く提出することによるメリットや、誤った解答を提出した場合のペナルティは無い。選手には、高度な課題に対して、5 時間の競技 中にじっくりと取り組むことが要求される。
     競技時間内であれば解答の再提出も可能である(提出の頻度には多少の制限があるが、通常この制限に引っかかることはあまりなく、提出回数は実質的に無制限と言える)。
     EGOI 2023 で出題された課題は以下の 8 題である。
                   
    EGOI 2023 競技課題
     競技 1 日目    インフレーション (Inflation)
      パデルの賞品の追跡 (Padel Prize Pursuit)
      箱を探せ (Find the Box)
      自転車 vs 車 (Bikes vs Cars)
     競技 2 日目 カーニバルの総帥 (Carnival Generals)
      キャンディー (Candy)
      気送管 (Sopsug)
      家探しゲーム (Guessing Game)

     いずれも数理的思考力が問われる良問である。各課題はいくつかの小課題に分割されている。小課題の中には、単純な実装で得点が得られるものから、高度なアルゴリズムを実装しないと得点が得られないものまで含まれている。従って 1 つの課題を丸ごと落として 0 点になってしまう可能性は少ないが、満点を取るのは難しい。
     また、すべての問題の満点の配点は同じであるため、比較的簡単な問題では満点を取りたいところであるが、他のプログラミングコンテストと違い、選手はコンテスト中に順位表を見ることはできない。このため、選手は問題の出題順 (運営の考える難易度順)も参考にしながら難易度を一人で判断し、コンテスト中の時間配分を考えなくてはいけない。
     EGOI はプログラムの作成技術を競う大会ではない。技術力があるに越したことはないが、それよりも EGOI で重視されるのは数理的な思考力・洞察力である。競技では課題の本質を見抜く力が問われ、(気づけばそこまで難しくはないものの)一見して何をしたらいいか分かりづらいような問題も出題された。

     (1) 競技規則 : IOI とほぼ同一の競技規則が適用された。ただし、C++ のみが使用できる IOI とは異なり、Python で解答を作成することも許可された。
     (2) 競技実施方式 : 今年はハイブリッド形式 (一部の国のみオンライン参加) での開催であった。EGOI 2023 で出題された課題は、標準入出力を用いてデータの読み書きを行い、与えられたデータを処理するプログラムを実装したソースファイルを提出する形式であった。指定された方法でジャッジプログラムとやり取りをする関数を出力する形式の課題や、出力ファイルのみを提出する形式の課題は出題されなかった。提出されたソースファイルは競技システム上ですぐにコンパイル・実行・評価される。ソースファイルを提出した競技参加者にはフィードバックが返され、自分の得点を知ることができる。満点でなかった場合は、どの小課題で失点したかを知ることができる。
     (3) 競技システム : 競技時間中、選手にはデスクトップ PC が 1 人 1 台与えられた。選手の PC には開発環境と、競技システムにアクセスするためのウェブブラウザがインストールされている。
     競技システムには、 IOI や昨年までの EGOI とは異なり、Kattis が用いられた。
     (4) 翻訳 : 競技日の前日の夜には役員により問題文の翻訳が行われた。
     今年の翻訳システムは近年の IOI と同じく Markdown 形式であり、すべての編集がサーバー上に保存され、システム上から印刷を要求できるなど、使いやすいものであった。日本語フォントに問題があったが、昨年同様こちらが用意したフォントファイルをアップロードすることにより解決した。

  5. その他・感想など
  6.  今年の EGOI は 2 回目の現地開催であったが、素晴らしい運営がなされていたと思う。競技者全員が同じ会場に集まるのではなくいくつかの小さい部屋に分散するという、IOI 等とは異なる競技形態が取られたが、競技に関して特に大きなトラブルが起こることはなかった。問題文の質が高かったり、競技や運営に関する会議の進行が非常に迅速であったりと、役員側の負担が少なくなるような運営をしていただいた。また、選手が過ごす環境や、エクスカーション、開閉会式などのイベントに関しても充実していた。ホスト国のスタッフやガイドの皆さんにも本当に親切に対応していただいた。あらためて大会の運営に関わった方々に深く感謝したい。


  7. おわりに
  8.  今年は 2 回目の現地開催にして金メダル 1 個、銀メダル 3 個という大変すばらしい成績をおさめることができました。今回、EGOI 2023 への選手団派遣を無事に終えることができましたのは、日頃より情報オリンピックの活動にご支援をいただいている皆様のお陰です。この場を借りてお礼を申し上げます。どうもありがとうございました。今後ともよろしくお願いします。