第4回ヨーロッパ女子情報オリンピック (EGOI 2024)
オランダ大会 参加報告

日本選手団 団長 米田優峻

  1. 概要
  2. 第 4 回ヨーロッパ女子情報オリンピック (EGOI 2024) は,2024 年 7 月 21 日から 27 日に,オランダのフェルトホーフェンで開催されました.

    競技は 7 月 23, 25 日の 2 日間にかけて実施されました.各競技は,5 時間で 4 問を解くという形式で行われました.各課題の配点は 100 点であり,合計 800 点満点のうち何点取れるかで順位を決める,という形式で競技が行われました.また,EGOI では,成績上位者に以下の形式でメダルおよび優秀賞 (Honorable Mention) が授与されると定められています.

    そこで今年は,金メダルが 15 名 (510 点以上),銀メダルが 31 名 (409 点以上 510 点未満) ,銅メダルが 46 名 (312 点以上 409 点未満),優秀賞が 22 名に授与されました.

    EGOI 2024 における日本代表選手の成績は,1 名が金メダル,2 名が銀メダル,1 名が優秀賞となり,全員が優秀賞以上の成績となりました.

    EGOI 2024 日本選手団
    日本代表選手 
    金メダル  藤居星  北海道札幌南高等学校 3 年 
    銀メダル  植田奈々子  Rugby School Year 12 
    銀メダル  籏智里奈  洛南高等学校附属中学校 3 年 
    優秀賞  志村瑛美  東京都立新宿山吹高等学校 2 年 
    日本選手団役員  
    団長  米田優峻  東京大学理学部情報科学科 4 年 (IOI 2018 特別参加選手,IOI 2019・2020 選手) 
    副団長  大野栞  東京大学前期教養学部 2 年 (EGOI 2022 選手) 
    随行員  髙谷悠太  東京大学大学院数理科学研究科博士 1 年 (IOI 2014・2015・2016・2017 選手) 

  3. 参加チーム別順位
  4. EGOI は個人戦であり,公式データとしての国別順位は存在しません.

    公表された成績に基づいて算出したところ,メダル獲得数による日本の国別順位は全 57 カ国中 4 位タイとなりました.また,総得点による日本の国別順位は 8 位タイとなりました.

    順位 国・地域 メダル獲得数 順位 国・地域 総得点
    1 位 ポーランド 金x4 1 位 ポーランド 2,252 点
    2 位 アメリカ合衆国 金x2・銀x2 2 位 アメリカ合衆国 2,100 点
    3 位 トルコ 金x2・銀x1・銅x1 3 位 トルコ 1,966 点
    4 位 ブルガリア 金x1・銀x2 4 位 スウェーデン 1,728 点
    日本 5 位 ルーマニア 1,722 点
    6 位 スウェーデン 金x1・銀x1・銅x2 6 位 ブルガリア 1,714 点
    7 位 ブラジル 金x1・銀x1・銅x1 7 位 クロアチア 1,670 点
    ウクライナ 8 位 日本 1,666 点
    9 位 スロバキア 金x1・銀x1 スイス
    10 位 オーストリア 金x1 10 位 ハンガリー 1,649 点
    11 位 スイス 銀x3・銅x1 11 位 ブラジル 1,636 点
    12 位 ルーマニア 銀x2・銅x2 12 位 ウクライナ 1,634 点
    クロアチア 13 位 セルビア 1,508 点
    14 位 ハンガリー 銀x2・銅x1 14 位 スロバキア 1,464 点
    15 位 セルビア 銀x1・銅x3 15 位 ドイツ 1,430 点

  5. 競技について
  6. EGOI は 2024 年時点で,世界で最も権威のある女性向けプログラミングコンテストです.女子中高生を対象とし,1 カ国最大 4 名の代表選手が世界各国から参加します.

    EGOI は,1 日 4 問の数理情報科学的な問題が出題され,問題を解く C++ や Python のプログラムを提出する,という形式で行われます.提出したプログラムは競技サーバー上で提出後数分以内に採点され,その採点結果に基づき得点が与えられます.競技時間内であれば解答の再提出も可能です (15 分間に 15 回という制限がありますが,通常この制限を超えて提出することはあり得ず,実質的には無制限といえます).ここで,プログラムの実行時間およびメモリに制限があるため,効率の良いアルゴリズムを実装しなければ,満点を取れないことが多いです.

    EGOI では合計得点のみによって順位が決定し,解くまでにかかった時間,および不正解の提出をした回数などは順位に影響しません.たとえば,開始 10 分で 100 点を取った選手と,20 回の不正解の提出の末,終了 1 分前に 100 点を取った選手では,順位が同じになります.そのため,選手には難易度の高い課題に対して,5 時間の競技中にじっくり取り組むことが要求されます.

    さて,EGOI 2024 で出題された問題は以下の 8 問です.各競技日について,難易度順に並べられています.

    EGOI 2024 競技課題
    競技 1 日目  無限レース (Infinite Race) 
    花束 (Bouquet) 
    みんなでコーディング (Team Coding) 
    庭の飾り付け (Garden Decoration) 
    競技 2 日目 輪になってパス (Circle Passing) 
    駐輪場 (Bike Parking) 
    電球 (Light Bulb) 
    会わせてあげよう (Make Them Meet) 

    いずれも数理的思考力が問われる良問でした.また,すべての問題には部分点が付けられており,単純な実装で一部の得点が得られる一方,複雑なアルゴリズムを実装しなければ満点が得られない傾向がありました.そのため,1 つの課題を丸ごと落として 0 点になる人が続出する問題は少なかった一方,後半の問題は満点を獲得するのが非常に困難なものでした.特に競技 2 日目では,3 問目・4 問目ともに正解者数が 0 人となりました (それぞれ最高点は 80 点・58 点).

    EGOI では,プログラムを速く正確に実装する能力も重要ですが,数理的な思考力や洞察力 (効率的なアルゴリズムを思いつく力) も同程度に重視されます.具体的には,8 問すべてについて,よく知られているアルゴリズムをそのまま実装するだけでは解けず,思考力を使ってアルゴリズムを上手く組み合わせることで初めて解ける問題になっています.また,選手は競技中に順位表を見ることができないため,前半の問題がどれくらい簡単であるのか,どの問題の部分点が取りやすいのかなどの情報を一切得ることができません.そのため,時間配分,問題を解く順番,メンタルといった戦略部分も重要になります.

    競技の実施方式などについては,EGOI 2024 では以下のようになりました.

    1. 競技実施方式: 今年は昨年と同様,完全に現地での開催となりました.競技実施時刻は例年より 1 時間早く,8 時から 13 時までの 5 時間となりました.また,リアルタイムの順位表は外部にも一般公開されましたが,選手は見ることができませんでした.
    2. 競技規則: IOI とほぼ同様の競技規則が適用されました.
    3. 問題形式: EGOI 2024 の問題形式は,標準入力 (std::cin など) を用いて入力を行い,標準出力 (std::cout など) を用いて答えを出力するプログラムを提出する形式でした.IOI では関数を実装する形式を採用していますが,今年の EGOI では昨年と同様,より選手にわかりやすい標準入出力が用いられました.また,本大会では昨年と同様,自動採点が用いられました.提出したプログラムが数分以内で採点され,選手にもフィードバック (自分の得点・どの部分点に正解したかなど) が競技中に見られるような形式です.ここで,昨年からの変更点が 1 つあります.これまで各問題の最終的な得点は「自分の提出の得点の最大値」でしたが,「各部分点ごとの得点の最大値の合計」に変更されました.たとえば配点 40 点のデータセット A,配点 60 点のデータセット B があり,ある選手が「データセット A のみに正解する提出」「データセット B のみに正解する提出」の 2 回の提出を行ったとします.このとき,従来の形式では 60 点しか得られませんが,今回の形式では 100 点満点が得られます.
    4. 競技システム: 競技時間中,各選手には 1 台の PC が与えられました.各 PC には提出するための Web ブラウザと,Geany や VSCode などの開発環境があらかじめインストールされていました.また,今年の競技システムは Kattis が用いられました.Kattis は EGOI 2023 から採用されています.
    5. 翻訳: 競技日前日の 20 時頃から 26 時頃にかけて,日本選手団役員による翻訳が行われました.今年の翻訳システムは近年の IOI と同様 Markdown 形式であり,すべての編集がサーバー上に保存されるなど,使い勝手が良いものでした.

  7. 感想
  8. 今年の EGOI は過去最大となる参加者数 195 名を記録しましたが,例年以上に素晴らしい運営がなされていました.開会式・閉会式も大きなトラブル無く行われ,競技 1 日目と 2 日目の間にある選手のエクスカーションも非常に充実したものとなりました.さらに競技についても,アピール (異議申し立て) による得点変動が生じなかったどころか,2 日間両方で競技時間の延長が 1 件も無いなど,前代未聞のレベルでスムーズに進みました.

    これは,運営陣・ガイド・ボランティア一同の努力のおかげです.大会の運営に関わった方々に深く感謝します.本当にありがとうございました.

  9. おわりに
  10. 今年は金メダル 1 名,銀メダル 2 名,優秀賞 1 名と,非常に素晴らしい成績を残すことが出来ました.今回,EGOI 2024 への選手団派遣を無事に終えることが出来ましたのは,日頃より日本情報オリンピックの活動にご支援をいただいている皆様のおかげです.この場を借りてお礼申し上げます.どうもありがとうございました.今後ともよろしくお願いします.