今年の IOI の競技環境について述べます.
(1) 今年から,1 日あたりの課題数が 4 個から 3 個に変更されました.易しい課題が無くなった代わりに,各課題がいくつかの小課題に分割され,小課題の中に易しいものが含まれるようになりました.
(2) 2010年のカナダ大会で導入された「プロシージャー方式」と「トークン方式」は継続されました.選手は,実行可能なプログラム全体ではなく,アルゴリズムの根幹をなす「プロシージャー」のみを提出します.また,競技中,選手には 30 分ごとに 2 個の「トークン」が与えられ,トークンを使ってプログラムを提出することで,自分の現在の得点を知ることができます.些細なミスで大きく点数を落とすことが無くなり,選手は自分の実力を十分に発揮できるようになりました.
(3) これも2010年から導入されたものですが,競技中の選手の得点をウェブページを通じて見ることができる「スコアボード」は今年も継続されました.スコアボードは全世界に公開されましたので,日本からスコアボードを通じて日本選手の活躍を応援してくれた人もいました.今年のスコアボードは少し凝っていて,加点すると選手の名前がふわふわと浮き上がるといった,見る者を楽しませる工夫もありました.
(4) 今年の競技課題は,標準的な形式ですがよく練られた良問 (難問) が多く,さすが IOI と言えるものでした.アルゴリズムの基礎をしっかりと身につけた日本選手にとっては,取り組みやすい課題が多かったようです.それが今回の好成績の一つの要因だと思います.出力のみの課題 (output only task) や,カナダ大会の Language のような新傾向の課題は出題されませんでした.
まとめると,今年の IOI は,伝統的な課題形式を保ちながら.競技環境としてはカナダ大会の改革の良い点が継続された大会でした.トークンのシステムやスコアボードもより洗練されており,一つの理想型に近づいてきたと言えます.
日本人の IOI への貢献について紹介します.選手が競技を行っている間,IOI Conference が開催されました.随行役員の今城健太郎さんが無線ネットワークを使った日本の競技環境について講演を行い,谷聖一副団長が日本の高校の情報科学教育の現状について報告を行いました.また,日本選手団とは別に,保坂和宏さん (IOI2008/2009 金メダリスト) がタイの Host Scientific Committee から特別に招待され,今年の IOI を運営側から支えていました.こうした貢献が,将来的に,日本の数理情報科学教育の充実に繋がり,日本選手のさらなる活躍に繋がっていくことを期待したいと思います.
今年の IOI に参加した選手たちは競技や国際交流を通じて多くの刺激を受け,大きな自信を持ったと思います.世界にはまだまだ上には上がいるということも実感したと思います.今回の経験を糧に,選手たちには,これからも世界中で活躍していってほしいと思います.そして,今年の日本選手の活躍に刺激されて,来年以降も多くの中高生が JOI に挑戦し,IOI で活躍してくれることを期待したいと思います.
最後になりましたが,JOI の運営や,IOI への選手団派遣にご協力・ご支援いただいた皆様,Yanika さんをはじめとするガイドの皆様,IOI タイ大会の運営スタッフの皆様,どうもありがとうございました.